取材

教育現場で見えてきたpostalkの魅力


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postalkを使ってくださっている方にお話を伺うインタビューシリーズです。今回は、関西学院大学教授の宮本健市郎先生にご登場いただきます。

新型コロナウイルスのまん延によって教育現場の在り方は大きく変わり、オンライン授業が当たり前になりました。そんな中、宮本先生はpostalkを使って学生たちとコミュニケーションを取りながら新しい授業の仕組みをつくっていったそうです。どんなところに魅力を感じ、使い続けてくださっているのか、くわしく伺いました。

目次

postalkの操作は学生にとって“思考の勉強”になる

川野:宮本先生はpostalkをどこで知ってくださったんですか。

宮本:教育現場は新型コロナウイルスによって否が応でもオンライン授業をやらざるを得なくなってしまいました。しかし、対面とオンラインではコミュニケーションの取り方が全く異なります。それまで経験がなかったものですから、なかなか良いツールが見つけられず、探していたときに知人から教わったのがpostalkでした。2021年の9月から愛用しています。

川野:使ってみて、いかがですか。

宮本:何より素晴らしいと思ったのは、操作が非常にシンプルなのでITの知識がない私でも気軽に使えることです。この時期、さまざまなリモート会議ツールが出てきて、それぞれのアプリ内にもメモ機能があったのですが、ちょっと使いにくいと感じていたんです。その点、postalkは誰でも使いやすいのが導入のきっかけになりました。

川野:「誰でも使いやすい」というのは、とてもうれしいお言葉で、まさに僕たちが大切にしているポイントです。今の時代、優秀なエンジニアがたくさんいるので、便利なツールも増えてきています。でも、一方で使いこなせるようになるまでに覚えなければいけない操作が膨大で、大変なものも多い。道具はもっと開かれていなければいけないと思うんです。

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宮本:ここ数年のうちに、IT機器はあまりにも賢くなりすぎたと感じます。やっと使いこなせるようになったらまたシステムが変わって覚え直さないといけないこともある。確かにリニューアルしてもっと良くなったのかもしれませんが、利用する側はそのたびに勉強を繰り返さないといけなくなって、時間がもったいないと思うんです。日頃から「こうして使い方を練習する時間があるなら、研究やものを考える時間に使いたい」と考えていたのでpostalkのシンプルさはまさに求めていたものでした。

川野:「もっと良くなったのかもしれないけど」という宮本先生の言葉は、刺さりますね。みんなで通る道なのに、ある一部分だけ舗装して「この上を歩く人だけ楽になりました」と言われても意味がない。良くするなら、みんなが通る道全体を良くしないと。そこはいつも考えているところなので、このままで良いんだと勇気が湧きます。

宮本:特に私は今から複雑な技術を習得するために時間を割きたいとは思わないんです。それよりも、研究をしたり、若い人に伝えていったりと本当に大切だと自分が思えることに時間を使いたい。これは年齢関係なく、きっと若い人たちも同じだと思いますね。

川野:postalkは、文化人類学者の川喜田二郎さんが考案した「KJ法」を参考にしているんです。若い人でKJ法を知っている人はほぼいないかもしれませんが、このやり方はブレストの場では割と一般的になっている。それをブラウザ上でできるように作ったのがpostalkというわけです。基本に立ち返っている感じですね。

宮本:それは感じます。昔は手書きのカードに考えを書き込んで、それを分類して並べて論文の構成を練っていたんです。自分の発想を書き込んで貼り付けて分類するという、全て手作業のこの流れにこそ意味があると思います。機械を使った方が早いのかもしれませんが、プログラミングされた機械がやるのと人間が思考を巡らせてやるのとでは絶対に質が違うはずです。むしろ、機械に何でもやってもらっていたら、人間の思考力はどんどん衰えてしまうでしょう。機械はヒントを出すだけで、あとは人間が考える。これがベストだと思います。

川野:postalkって、ソフトウェアの常識から見ると面倒くさいんですよ。「もう少し自動化すればいいじゃん」「並び替えるのは自分じゃなくてもいいじゃん」って実際に言われることがあるくらいです。

宮本:そうなんですね。私は、学生が書き出した思考のメモを、ランダムに並び替える作業ができるのはすごく楽しく感じます。機械ではなく、あえて自分たちの手でやるというのは、思考の練習にもなるし、学生たちの良い学びにつながっていると思います。

川野:例えば、カードにまとめられた考えを別の人が並び替えることで、自分が発信したかった意図と全然違うものになり、別の読解が可能になることもあります。そういう発見が生まれるのが、僕自身、postalkの好きなところです。

学生たちとのコミュニケーションを支えるpostalk

川野:オンライン授業では、postalkをどのように使うことが多いですか?

宮本:Zoomのブレイクアウトセッション機能を使って10人程度のグループに分かれてもらい、それぞれにボードをひとつ割り当てて、司会者を決めます。そこで自由にディスカッションをしてもらって、最終報告はpostalkのボード上でまとめてもらうという具合です。これを見ると「あのグループとは言ってることが違うな」と分かります。

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川野:ボードを見たらみんなが微妙に違う意見を持っているというのがすぐ分かって良いですね。

宮本:そうです。過去のボードを見て「前回はこうでしたよね」と、確認もできます。学生たちも楽しんで書いてくれているみたいですし、授業が終わったあとでもアクセスできるので「1週間は自由に書き込みしていいよ」ということにしています。

川野:postalkのように、短文型で意見を書ける点にメリットは感じますか。

宮本:短文だとハードルが低くなる印象はあります。

川野:言語化が得意なタイプの方もいれば、そうじゃない方もいますよね。

宮本:そうなんです。授業後に「ああ言えば良かった」と思う人もいる。その点では後になっても書き込みができるpostalkは良いですね。

川野:授業内でのpostalkの使用時間の配分は決められていますか。

宮本:そこは試行錯誤中です。昨年は、授業の数日前に授業内容のデータを学生に提示し、予習するように指示しておきました。授業では、最初の30分で要点を講義し、30分をブレイク・アウトセッションでのディスカッションに使い、最後の30分で各グループにプレゼンしてもらうという方式で進めました。ただ、プレゼンの際には、私が一つ一つのグループにコメントをつけがちなので、学生からは「時間通り終わってください」と言われてしまうことがありました(笑)。一方で「先生からのコメントが欲しい」と言われたこともあるので、バランスが難しいところですね。

川野:宮本先生のお話を伺っていると、学生たちとの距離感が素敵だなと感じます。学生を信頼しているのが伝わってきます。

宮本:そうですね。学生がどう思っているかはわかりませんが、私は楽しくやっているつもりです。そういう意味では、学生とのコミュニケーションをサポートしてくれているpostalkに感謝です。

川野:postalkを授業以外で使うこともありますか?

宮本:6、7人の研究会でも使います。国内はもちろん、海外からもすぐにアクセスできるので「次の学会ではこんなことを発表します」とお互いに書くことで、意見がいろいろ出てくるんですよ。ちゃんと記録が残るので後からでも見返せますし、思いついたときに書き込めるのも魅力的です。

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川野:オンライン授業になると顔を出すか出さないかという話がよく出るんですが、宮本先生はどう考えますか。

宮本:表情が見えると「この学生は理解できていないな」というのが分かって対応ができますから、可能な限り顔は見せていただきたいですね。もちろん強制はできませんが。

川野:宮本先生のオンライン授業は80~150人の学生が参加されるとのことですが、こんなに大勢とオンラインでつなぐのは大変ですよね。

宮本:だからこそpostalkは重宝します。でも、少人数で行うゼミでも利用しています。

川野:卒論をまとめる際に使っているという人もいて、僕らは想像していなかった使い方だったので感動したことがあります。本当にさまざまな使い方をしていただいているようで、うれしい限りです。ありがたいことにpostalkは教育現場で使っていただく機会が増えているんですよ。ぜひ、これからもそういった意見をもとに改善を重ねて現場に還元していきたいですね。

匿名性だからできることもある

宮本:postalkは誰が何を書いたかが、履歴を見ないと分からない状態ですよね。誰の意見かで読む側の反応も違ってくるでしょうから、匿名が良いのか悪いのかは一概には言えません。

川野:会員登録をしている場合は履歴から見られますが、パッと見では見えないようにしています。というのも、開発当時、誰が言ったかよりも何が書かれているかが肝心ではないかと考えたんです。だから当初は履歴でも見られないようになっていました。例えば、同じ発言でも女性がしたか男性がしたかでどうしても受け止め方が変わってくることがあるじゃないですか。匿名か実名かで振る舞いも変わると思うんです。

宮本:確かに、匿名だと自由な意見が出やすいから、新しい発見も多いです。でもその一方で「この意見を書いた人に話を聞いてみたいな」と感じることもあります。まあ、そんなときには「これを書いた人はメールしてください」とか言えばいいんでしょうけど。

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川野:教育現場に浸透していくには、そこの問題はちゃんとはっきりさせないといけないとは思っています。僕自身は匿名だから授業の質が悪くなるとは全く感じませんが、やっぱり学校は出席することに意味がある部分も大きいじゃないですか。だから、いざ現場で取り入れようとしたときに「匿名で付箋が貼れる空間がブラウザ上にある」と言われても「それって本当に授業に参加してるか分からないじゃない」とつっこまれたらアウトだな、と。

宮本:教育現場に浸透していくという点では、postalkの支払い体制に定額制プランができたのは良かったと感じています。大学側も、初めてのオンライン授業の試みということで「ちゃんとできているのか」と不安に感じているところが多いと思うんですよ。そういうときに「postalkでこんなふうに進めています」と報告できるように、私はpostalkの画面を保存しています。その際、1枚ずつの都度払いしかなかったら精算がものすごく大変ですから(笑)。

川野:そういったお声もいただくので、まだ内容は固まっていませんが、今後はアカデミックプランみたいなものも用意していけたらと思っているんですよ。学生の方々にももっと知ってもらいたいです。

宮本:楽しみですね。この半年間ほどで、postalkはより一層便利になったと感じています。

川野:うれしいです。僕らとは、全然違う業界の方にそう言っていただけるのはとても光栄です。これからもどんどんフィードバックをいただけるとありがたいです。

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