これまで、このblogはpostalk株式会社のカワノヨウヘイ(@y0kaw)が書いてきましたが、今回第三者を聞き手にして、改めてpostalk(ポストーク)を作った背景やそこまでの道のり、これから広がっていく可能性について、共同創業者の平間(へいま)さん(@kiyopikko)とともに話をしてみました。
僕たち自身も「すでに当たり前だと思っていたけど、外から見るとこういうところが疑問に思われるのか」などの気づきがありました。
postalkをまだ使ったことがない方も使っているよという方も「へぇ」と思われるようなことがあるかもしれないので、お茶でも飲みながら読んでもらえるとうれしいです。
目次
postalkメンバーである2人の出会い
川野 :この部分は、ちょっと我々の自分語りにもなりますので、すぐにpostalkの話が読みたい方はここまで飛んじゃってください(笑)。
僕と平間(へいま)さんが出会ったのは、2011年ごろ、共通の知り合いの花田さんを通じて、とあるNPO系のセミナーで出会いました。当時、2人とも福岡の大学に通っていました。
僕は花田さんとブルースバンドを組んでいたんですが、ただ演奏して楽しむだけじゃなくて、ライブを聴きに来てもらう動線もしっかりつくっていきたいなと思っていて、高校生がライブハウスに来る抵抗感がなくなるようにちょっとしたイベントを企画したりしていました。オーディションで勝ち上がった人だけがライブハウスの舞台に上がれる仕掛けにして、ライブに出ること行くこと自体のエンタメ性をより高めるというか、そこの価値を高めていくような動きをしていました。
当時、経営を学ぶ学科にいたものの、学業よりキャンパス外での活動にエネルギーを注いでいたせいか、出会う人々もアクティブでパワフルな人たちが多く、その影響も受けて、2013年に大学を辞めて、起業し、福岡市中央区大名のアパートをオフィス代わりにしていました。
数年に一度程度、ビジネス界に波があると思うんですが、当時もスタートアップが盛り上がっている時期だったんです。
良いアイデアがあれば何百万円と投資してくれる仕組み(シードアクセラレーション)が登場しましたし、iPhoneをはじめとするスマートフォンの登場や、AirbnbやUberなどのサービスの勃興もありました。
僕自身はiPhoneやSNSをそこまで熟知しているタイプではありませんでしたが、インターネットの世界が変わりつつある空気は感じていて、「この波を活用して何かしらのアイデアを世に出していきたい」という思いはありました。
平間:川野さんが大学での学びにあまり興味が持てなかったように、僕も同じような感覚があったんですよね。
「名前がかっこいいから」という理由で芸術工学の音響設計を学ぶ学科に進学しましたが、ピアノの練習とかスピーカーの構造を学ぶために細かいサイズを測ったりとか、全然興味が持てなくて。大学3年の頃に「別のことしてみたいな」と思って、全学共通の一般科目にあった「アントレプレナーシップ入門」という授業を履修したんです。
ここでは、経済や起業といった、普段僕が接することのないビジネス領域の文化に触れられて、同じような悩みを抱えている人たちと接する機会を得ました。
「Think out of the box(既成の枠にとらわれず考えろ)」という考えを知ったり、ここで知り合った花田さんが誘ってくれるイベントで川野さんとの縁があったんです。
postalkの原形が2人に合った理由
川野:起業してしばらくは何を作ろうかなと考えたり、インプットしてはアイデアをチーム単位で形にしたりしていましたが、僕らの共通の知り合いが、国が定めるスーパークリエイターに採択され、「テクニカルロックスターズ」という会社を立ち上げ、一緒にやろうという話になったので、2014年の夏に上京して、3人のチームとして活動するようになりました。
この時に社内のコミュニケーションツールとして運用していたのが今のpostalkの原形といえるものでした。
平間:それぞれ違う仕事を進めて、パソコンに向かって作業をする時間が長くなってくると、お互いの考えを面と向かって交換するタイミングが減ってしまうこともあって、このツールが非常に役立ちましたね。
川野:ですね。
あとこれも僕らの共通点といえると思いますが、特に当時は、コミュニケーションが苦手なところがあって、言葉にし過ぎたり、あるいは逆に言葉が足りなかったりして、数多あるネット上のチャットツールにおいてもどかしさを感じていたのを覚えてます。
チャット能力がコンプレックスなのって、ITの仕事をしていく上では結構ストレスで。
その頃僕は、自分のことを「本読んでいるだけの何もできないやつだな」と反省ばかりの毎日でしたが、救いになったのは、唯一自分に合っているなと思えた、カードを使ってグループ化していく「KJ法(※)」というやり方だったんです。
その時の社内コミュニケーションツールもKJ法を実施できたから僕らにフィットしたんだと思います。
※KJ法:文化人類学者の川喜田二郎氏が著書『発想法』の中で効果的な研究・研修方法だと紹介した情報をまとめていく手法のこと。
ある日突然に形になったpostalk
平間:お互い会話だけで進めるコミュニケーションがとにかく苦手でしたよね。言語化したり、正確に相手の言ったことを理解することがとても難しく感じていました。
川野:そうそう、平間さんと知り合ってから10年ぐらい経つけど、こうして膝を突き合わせてじっくり話す機会なんて数えるほどしかなかったかもしれない。最初の数年は少なくともそんな感じだったんじゃないかな。
だけど、話せば話すほど「気が合うな。似たようなこと考えてるな」と思えるようになってきて。僕らの会社を売却して、一緒に行くことになったり、「この経験を生かして起業しよっかな」と相談したりしていたときも、最初、平間さんはそんなに興味なさそうに見えてましたけど(笑)、ある日新宿のカフェで起業の話をしていたら「いいですね、やりましょう」って言ってくれたんですよね。それが、僕らの本格的な第一歩かな。
平間:そうでしたっけ(笑)。
川野:僕は、本を読むのがとにかく好きで、勉強するのも好き、あとは“手法”に目がなかった。
それでプロダクトを形にするまでのワークショッププログラムなんかを見つけては平間さんを誘って一緒に参加したり、ビジネスモデルやロジックを考えるようになったけど、当時、僕が「ビジネス的な勝算」とか、「合理的なモデルが必要だ」とか言い出すにつれて、平間さんのテンションがどんどん落ちていくのがわかって、「あれ?」って(笑)。
でも、ここで離れてもらったら困るから、平間さんという人にちゃんと向き合おうって初めて思えました(笑)。
そんな頃だったかな、平間さんがある日、デスクトップアプリを急につくってきたんです。もうほぼ今のpostalkのベースとなるもので、イメージしていた以上の出来映えで驚きました。
平間:川野さんが言う通り、ビジネスや戦略から考えるのが好きじゃなくて(笑)。
あれこれ頭で言語化して細かく計画を立てるよりは、自分だったらこう使いたいというものを感覚とロジカルのバランスを取りながら手を動かして形にした方が早いなと思って。
コミュニケーションが苦手だからこそできたツール
川野:最初に見せられた時は、「何だこれ、めっちゃいいじゃん!」って思わず興奮しました(笑)。
“ホワイトボードツールやチャットツールにありがちな時系列、直線的なコミュニケーションを二次元に広げて、バラバラにしたり、分岐させたりできる点が画期的”だと感じたんです。
会議や議論で話を交わした順に並べると、隣に置かれてしまうようなメモも、内容から判断すると実は離して置いた方がいい場合ってありますよね。
だけど、時系列に添った議事録のようなものだとなかなか後から適切に“動かす”のが難しいと思うんです。
でも、これなら、時間や話者に縛られず、内容を軸にして寄せたり離したりできるなと。
平間:そういえば、実際Skype会議をしながら、それまではGoogleドキュメントに議事録をまとめていたのをpostalkに変えた途端、話題がきれいに整理できたことがありましたね。
「これとこれの話をしたんだったら、この話題もいるよね」と内容が近いものを動かしながら整理していくことができて、すんなり「次回はこうしていきましょう」という一歩進んだ話に着地して、要らない時間やエネルギーが削ぎ落とされていく気持ち良さを感じました。
川野:ありましたね!
同じ会社やチームの人間同士で話していても、すれ違いや誤解って頻発していて、例えば、「ドメイン」という言葉を聞いて「ビジネスドメイン」を想像する人もいれば、エンジニアはもっと専門的な言葉だと捉えていたりするんですよね。
同じ世界の人とだけ話すならそれほど齟齬も生まれないけど、広い世界で勝負をするとなると“いろんな解釈が漂える広場のような空間”が必要だと考えたんです。
平間:だからこそ、あまり細かく使い方を決め込んだり、多くのルールを設けすぎないようにしているんですよね。
公園で散歩をする人もいれば、キャッチボールをする人もいたり、お昼ごはんを食べたり、昼寝をする人もいていいようなイメージでしょうか。
川野:「用途を絞らないのか?」「もっとエンジニア向けなど専門的にしないのか?」と聞かれることもありますけど、あくまでも「僕らはいろんな人のコミュニケーションがもっと良くなればいいな」という視点で開発していきたいですね。
平間:それぞれの人がそれぞれの頭の中で“よかれと思って”情報を整理することがかえって仇(あだ)となって生じてしまう齟齬が、生まれない場所をつくりたいですね。
Web上でみんなが見ている共通の景色の中で整理していくことで、個々人の脳内のメモリを使わずに済む感じが最高だと思うんです。
川野:二次元的に見て取れるのがpostalkならではの特徴ですからね。文章や箇条書きだと段階的に理解するのが難しい場合も、postalkなら上の概念、下の概念、順番やレイヤーをきちんと見える化した状態で直感的に整理しやすいです。
これ、あるあるだと思うんですが、主題だと思っていたことが、実はサブで、もっと重要なことは別にあるってケースは結構多いです。「違うよ、今話している話はそこじゃないって」みたいなことですね。
家族とか友人とか社内で話しているとあまり感じませんが、人間ってあまり知らない人とのコミュニケーションって僕らが思うよりヘタだったりするのかなって思うんですよ。
ただでさえ、コロナ禍の影響でリモートワークとか顔を合わせずに話が進むことが多くなっていて、誤解や齟齬って増えているような気がします。
ちょっとSNSをのぞいても何かしらの揉め事が起きているじゃないですか。
やっぱりコミュニケーションって、自然体でやるんじゃなくて、「うまいことやんなきゃ」って意識した方がいいんですよね。
そうした際の道具としてpostalkを使ってもらえたらとてもうれしいですね。
1枚の絵として完成するのが最大の特徴
平間:「道具」という表現はとても近いと思います。
postalkは決して「これさえあれば何でもできる」という万能アイテムではありません。できることも限られているし、機能も削ぎ落としてあって、とてもシンプルですから。
だけど、その分、使う方が自在に広げられる可能性があったり、主体性を持って使えば使うほどおもしろさを感じてもらえるといいなと思っています。
川野:道具=環境とも言い換えられるかもしれませんね。
ここまで余計な機能がないものを世に出すのはなかなか勇気が必要だったけど、今となってはこれが最大の独自性かもしれませんね。
平間:ホワイトボードツールやチャットツールってどれもそんなに構造は変わらないし、つけようと思えば無限大に、タスク機能や締切機能、保存機能もつけられるんですよね。
だけど、“1枚の絵として完成する”のがpostalkの強みだと思う。操作感も感覚的で子どもでも使えるんじゃないかっていうぐらい簡単です。
川野:僕らはIT界隈に居るから、最初は「自分たちが使いやすくて、少数の人に理解されれば十分」というスタンスでしたが、3年ぐらい前から力が抜けてきて、もっとたくさんの人に寄り添って、使いやすいものにしていきたいという気持ちが強まってきましたね。
いつでも誰でもカンタンに
川野:ソフトウェアって、スクロールにしろ、機能にしろ、“無限が基本”だけど、僕らは“限りがあることに価値を感じ”られたり、主体性を持って使う人が、“考えることを楽しめる”ようなものにしていきたいですね。
平間:ですね。自分だけのToDoリストとして使うも良し、誰かとアイデアを出し合うボードのように使うも良し、作家やクリエイターが自分の脳内を整理するためのアイデアソースとしてものづくりのアトリエのように使ってくれてもうれしいですね。
川野:このボードが脳を活性化させるスイッチのような存在になれたら最高ですね。
実際、今も大学で学生さんが使っているのを見た教職員の方がディスカッションツールとして使ってくれていたりもするみたいで、僕らが想定していなかったような使い方も見えてきました。会計事務所がタスク情報整理のツールとして使ってくれているという声もいただいています。
プライベートで、例えばBBQやキャンプ場に行くための計画表にしてもいいし、メルカリで売りたいものリストを作っておいたりとか、自分だけの食べログまとめみたいなものも編集できますよね。
本当にアイデア次第で使い方はどんどん広がるんです。それを考えることを楽しんでもらえたらうれしいです。
リニューアルでどんどん使いやすく
川野:2020年は、改めてpostalkの魅力を見つめ直し、削ぎ落とし、強みを際立たせようということでリニューアルを行いました。
小さなストレスや既成概念を排除し、postalkらしさをより深められたと思います。
リニューアルのポイント
- マークダウン記法をやめた
エンジニアには親しみのあったマークダウン記法をやめ、一般の方が使いやすいように - ボードもカードもサイズを固定
デザインの美しさと選択コストを少なくしたいという思いからサイズ調整機能をなしに - 6色から3色に
こちらも色が多いと見づらく、選択コストもかさむという考えからシンプルに - トップからワンクリックで新規作成
多くの登録ステップや管理画面を省いて、思い立ったらすぐ作れるように - 直感的に動かしやすく
前はカードの端っこをつかまないと動かせなかった点を、どこでも動くように
川野:僕たちはこんなツールを作っておきながらもアナログへの愛着も強い人間ですが、あくまでもデジタルであることに対してのこだわりを持ち、本来のWebならば難しいこともできそうだと思えるような空間を目指しています。その方が別々な背景のある、国際的に開かれたソフトウェアとして開かれていくのではないかという思いがあります。
平間:ここまでコミュニケーションの齟齬を解決したいとか、いろいろとお話ししてきました。
一方、究極をいうと、齟齬がゼロになる世界なんてありえないし、多少のすれ違いはあってもいいとも思うんです。
ただ、脳の中にある無形の情報をビジュアル化する上で、“こんなにも気軽で美しい視覚表現はない”という自負はあるんです。
川野:そこを単純に感じて、楽しんでもらえたら開発者冥利に尽きますね。
つかみやすくダイナミックに流れていくものを整えたり、大きくまとめて動かしたり、アイデアや構造自体を動かせるツールって実はあまりないんですよね。
この道具によって、人々の創造性をかき立てたり、ちょっとだけでも“考えたり、つくることが楽しい”と思ってもらえたらこれ以上の幸せはないなって、ワクワクしながら開発しています。
どうか今後も楽しみに期待していただきつつ、使ってもらえたらうれしいです。