取材

アカデミックな場所でpostalkがどう存在しているか


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postalk株式会社の川野(@y0kaw)です。
私たちはFukuoka Growth Nextにオフィスを構え、今後ますますpostalk(ポストーク)を多くの方に使ってもらうべく、情報発信に力を入れていきます。
その第1弾として、以前からやりたかった、postalkを使ってくださっている方へのインタビュー企画をスタートします。

第1回のゲストは、九州大学の木村拓也准教授です。
はじめに開発した頃には思いもよらなかったのですが、postalkは最近、大学などのアカデミックな現場で使っていただく機会が多くなっています。
「教育」というのは、僕らが大事にしているキーワードの1つでもあるので、postalkの使い方だけでなく、さまざまなお話を伺ってきました。

目次

postalkを知ったきっかけは海外の学生との対話から

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川野 :まずはpostalkを知ったきっかけを聞かせてください。

木村:最初は、学生が使っているのを見かけたのがきっかけでした。コロナ禍で、学生がミーティングのツールとして使っていたんです。

私の研究室を中心に、うちの日本人学生が、海外の大学生と協力して、タイの中学生に日本語を教えるプログラムをやったんですが、そのプロジェクトミーティングでpostalkを見かけました。学生が、postalkを使って、ミーティングを始めたんですね。

みんなでやりたいことを共有したり、オンラインで話が盛り上がっているのを見て、「これはいいな」と。それから、私が参加している教職員の研修活動に使ってみたんですが、それがかなり好評だったんですよ。

川野 :そうだったんですね!

先生が使われた研修では、具体的にはどのように活用していただいたのか気になります。

木村:私は今、大学生に教えるだけでなく、日本全国の大学入試をより良くしていく「アドミッション・オフィサー」を育てるという仕事もしているんです。

アドミッション・オフィサーというのは、簡単に言ってしまえば、高校生に大学でやることや魅力について正しく伝え、受験生を集めていくことに注力する役目を持っています。

これには、高大接続(高校教育と大学教育を一体として接続するよう捉える教育のあり方)への理解の深さや、入試が効果を出せたのかを検証するための統計力や、広報の力も求められる、とても総合的な働き方だといえます。

私たちのようないわゆる教員だけでなく、学校全体の事務をやってくれている職員の方々も一緒になって取り組んでいます。

こうしたチームは、常日頃から一緒に仕事をしているわけではなく、全国の大学にそうした教職員の方がいらっしゃるので、それぞれの職域があるので集まって会議をしたり、みんなで出張に行ったりということも頻繁には難しいんです。

だったらオンラインでpostalkを使って意見を出し合えばいいんじゃないかと。
研修って、授業と同じで聞きっぱなしじゃつまらないんですよね。
やっぱり双方向で意見を出すことで参加した意義も出てきます。

その研修では、参加者全員が積極的に意見を書き込んでくれて、みるみるボードが情報で埋められていく様子が、会自体を活気付いた印象に見せてくれて、話していても手応えがありました。

ただ誰でも書き込めるという利点が裏目になって、ある人が操作ミスをして全部消えちゃったというトラブルがあったんです。

これには私もヒヤッとしましたが、直感的に動かせるのでみんなもすぐに復旧してくれてかえって研修に一体感が出たのは怪我の功名だったかもしれませんね(笑)。

川野 :なるほど、それは貴重なご意見です。ついつい、僕たちIT業界の人間は、こういうツールを使い慣れた人を想定して開発してしまう傾向があります。

これから幅広い層の方々に使っていただきたいので、そういうトラブルも視野に入れて開発していきたいですね。

“声が見える”postalkでオンライン授業が活気づいた

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川野 :その研修をきっかけに他の場面でもお使いいただくようになったんですか。

木村:そうなんです。

「これ、絶対授業で使えるよね」という感覚があり、教職員同士でそういう話もしました。
特にコロナ禍を受けてのオンライン授業においてのあるあるエピソードなんですが、教員の立場からすると、一方的に話していてレスポンスが感じられないことが多いんです。

教室なら学生が黙っていても表情や反応が見えますが、オンラインだとカメラOFFにされると正直そこにいるかどうかも見えません。

ただpostalkに学生がコメントや意見を書き続けてくれればタイムリーにアクティブな雰囲気を感じることができるんです。

どういうケースに最適かというところは、また一考する必要もありますが、授業自体に活気が出るし、参加している側も受動的ではなく、主体的に学ぶことができておもしろく感じられる点は間違いないのではないかと思います。

参加者の年代や層によってはパソコンの習熟度に差がある場合もありますが、大学生の授業に関していえば、その点はほとんど問題ではありません。

先ほどお話しした研修の際は、前日にpostalkのURLを送っていたので、各自試しに書いたり消したりして試す時間も設けていました。

初めて使う場合はそういう工夫をしておくといいかもしれませんね。
何しろ、多くの人が参加して、同時&即時に情報を入力でき、共有までできるツールは学術的な現場においてはとても有用です。

色をつけて見出しとして使ったり、階層的にできる点もいいですね。
レイヤーという概念があるし、後から議事録をまとめるという点で見ても非常に便利です。

オンラインだと意見を板書してまとめるといった工程もありませんし、司会やファシリテーターが進行などの本来やるべきことに集中できるのもありがたいですね。

議事録が勝手にできていくので各人の領域に集中できる

川野 :「議事録として使える」というご意見は、IT業界でも同様です。

しゃべりながら書くのは大変だし、議事録の内容って、書く人の立場で見え方や捉え方、ひいては書き方も変わってしまいますよね。

postalkなら複数の人間の目と言葉でつくられていくので偏りが出にくいのかなと思っています。

木村:そうそう、あと司会の立場からすると、個別の意見を聞いている時って、耳を傾けることに集中するので発言の記録までは残せなかったりするんです。

でも、postalkで一斉に「意見を書いて」というと短時間に多くの意見が集まる上に、記録が同時に残っていくというのも画期的です。

100~300人規模の授業だと、みんなの考えていることに興味はあるけれど、聞く時間までは割けませんからね。アンケートをとって良い意見があってもせいぜい数人をピックアップするのが関の山でしょう。

postalkなら目に見えてリアルタイムで書き込まれていくおもしろさがあり、参加度を高めることもできます。書き込む参加者が他の参加者の意見を閲覧できるのもアンケートとは違う点ですね。

川野 :なるほど、僕らは思考を深堀りしていく際の道具として捉えていましたが、おっしゃる通り、大人数×広く浅い意見を募る場合にも有用ですね。

短時間・大人数の意見の集約に最適。議論の足跡がそのままカードに

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川野 :1人で思索を深める場合は、カテゴリや項目を広げていく使い方もできますが、大人数で共有するなら逆にカテゴリやテーマを絞って意見を集めて、俯瞰で見ることができますよね。

議論の道筋が見えるような感じでとても興味深いです。

木村:そうですね。短時間での意見集約・大人数に向いていると感じました。

授業で手を挙げたり、流れを止めてまで発言することに遠慮する学生も多いのですが、「postalkに書いてごらん」と言うとそこは抵抗なく書き込んでくれるんです。

Zoomのチャット機能もそうでしたが、話すより書く方がハードルは低いようで、コロナ禍になって学生が雄弁になったと感じています。
逆に研究者の視点で考えたときに、考えを深めて整理していくツールとして考えたことはなかったですね。

余談ですが、超一流の研究者というのは、口から発した話し言葉をそのまま文字に起こしても本が出せるほどに整っているんですよ。

だから、まとめ直したりする必要がないんですね。
私はその域には届いていないので、紙に書きながら考えをまとめています(笑)。

ただ読んだ文献のフレーズをまとめたり、他人の意見を理解するためのメモとしては良いでしょうね。

川野 :それぞれのスタイルがありますよね。

「研究者やものづくりに携わる方々のお役に立ちたい」という思いが強いので、何かしらpostalkで手伝える部分があればいいなと思っています。

学生さんの発言が少ないというのはシャイだからでしょうか。

木村:それもあるかもしれませんね。

postalkのようなテキストコミュニケーションであれば、他の学生の意見を読むこともできるし、お互い影響を与え合えるんだと思います。

あとは、無記名だから書きやすいというのもあるでしょうね。
みんなで動かして組み合わせられるおもしろさもありますし、1人で正解を出さなきゃというプレッシャーを感じずに、チームで知識を積み上げていくような感覚も良いのかもしれませんね。

本来大学でやりたかったインタラクティブの理想形のひとつに

川野 :コロナ禍でオンラインが急速に進んだのは、教職員の皆さんにとってはメリットも大きかったんですね。

木村:ある面で見れば、そういえます。

議論がよりインタラクティブ(相互)になったり、統計ツールやアプリの使い方の説明に何コマも時間を割く必要もなくなりましたね。

これまでは全て授業時間内にやっていたことも、事前に触って慣れてもらったり、「ここの動画は後で見ておいてね」みたいな、お互いにとって効率的な時間の使い方もできるようになりました。

私をはじめ、大学の教員は本質的にはインタラクティブなことをやりたいはずなので、postalkのようなツールが生まれて、どんどん便利になるのはありがたいです。

僕ら教員はどんどん歳を重ねながら、学生の発想とずれが生じるのではないかという恐怖心と常に戦っていますからね(笑)。

講義というのは、若い人のビビッドな感性と、教員のこれまでの統計の合作を築き上げていくようなものなんです。

そういう感覚や感性を大事にする教員ほど、インタラクティブであることに注意を払っていると思いますよ。
基本的な構造や仕組みは大事にしつつ、新しい感性と作用し合う経験は僕らも楽しいですからね。

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川野 :なるほど、確かに相互に意見を出し合うツールとして使ってもらえるのは僕らもうれしいです。

木村:そういう意味では、大学だけでなく小中高でも「総合的な探究の時間」なんかがありますよね。そうした場面でも使えるんじゃないでしょうか。

意見が出しやすい環境や仕組みを整えてあげるのって教員関係者にとって長年の課題の1つだと思います。

そして、場合によっては、postalkがいとも簡単に解決してくれる時があります。

川野 :チャットだと、時系列に流れてしまって、発信側と受信側のすれ違いが起きやすいなと感じていましたが、postalkだとカードの位置で最適な項目同士を近づけたりもできて、構造的に大きく違っているときに発見しやすいという利点もあります。

ある意味、ディスコミュニケーションまでビジュアライズされてしまう点もおもしろいのではないかと感じています。

木村:そうですね。

ただし、もちろん、これがすべての人にとって最善とは限りません。

教育は、多くの人にとって開かれているべきで、現状のやり方やシステムに合う人と合わない人の両方が幸せになれる制度設計をすべきだと私は考えています。

これまでのような対面のゼミ、講義形式、テストのやり方が合う人にとっても、postalkのようなやり方が合う人にとっても、どちらも学びやすい環境を常に模索し続けていかなくてはなりません。

川野 :確かに、新しくて良いものであっても、すべての人にとって最善とは限らないから選択肢や幅は必要ですね。

今、Googleドキュメントやスプレッドシートのような無料で使えるツールも充実していますが、大学の現場ではこうしたものも活用していますか。それともやはり対面が中心でしょうか。

木村:授業についていえば、コロナ禍を機に、オンタイムに授業をする先生と、収録してアーカイブを蓄積するタイプの先生の2タイプに分かれましたね。

後者は、日中にアルバイトなどのやることをやって夜空いた時間に観たり、やりとりできて便利という声がありますよね。

ただ「会いたいな」「キャッチボールしたいな」という層の気持ちは満たせないから一長一短です。

川野 :EdTech(エドテック:教育現場にテクノロジーを導入し、さまざまなイノベーションを起こしていく動きやサービスのこと)については、どうお考えですか。

木村:あくまでも教育者が見ているのは、学生ですからね。
新しいツールが出てきたから導入しようという順番で考えることはあまりないですね。

ただ、この生徒やこの議論にはこういうツールがあったらいいなというのが、たまたまpostalkのように見つかったら使うという程度です。

オンラインが急速に発展してきたとはいえ、オフラインがなくなるとは思えないんですよね。
便利なツールは使うけれども、0→1で変わるんじゃなくて、0.4とか0.7とかTPOに合わせてという感じでしょうね。

遠隔でも対面のおもしろさをボード上に再現できる

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木村:時間がなかったり、遠隔だったらpostalkのみでも完結しますが、対面だとpostalkである程度意見を出し合った後にホワイトボードを使って思考の整理をする、なんて使い方もできますよね。

あとはアンケートをつくって企画して、ある程度仮説を立てて、結論を想定しながら、組み立てていく戦略会議なんかをホワイトボードでやるんですが、こうした点と点を結びつけていくような挙動もpostalkでできそうですね。

川野 :postalkはデジタルですが、オフラインで集まる楽しさに近い感覚を味わってもらえたらうれしいですね。

木村:あると思いますよ。

あとは複数の人で1枚のボードをつくるだけじゃなくて、次の画面をつくる機能があるので、4つのグループで行う研修でそれぞれのグループごとのボードを設けて、横軸で比較したりするのもおもしろかったです。

もちろん、全ての授業や研修でうまくいくかどうかはこれからも試して、いろいろと挑戦していく必要がありますが、多くの可能性を秘めていますね。

余談:大学とゼミの違いについて

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川野 :ところで少し話が逸れてしまうかもしれませんが、大学とゼミの違いって、先生はどのようにお考えですか。大学は、単位を集めていくところで、ゼミは自由に学びたいことに没頭できるのかなというイメージがあります。

木村:大学を何と定義するのかは難しいですよね。
個別の感覚もありますが、国立大学と私立大学でもまた大きく違ってくるでしょう。
私は国立大学に所属しているのでその観点からお話しすると、国立大学はゼミを中心にして教育計画をつくっていると思います。

これは日本の伝統と言ってもいいかもしれませんね。
いわゆる「ラボラトリーベースドエデュケーション」といわれる考え方です。

わかりやすく極端に表現するならば他がC判定でも卒論がA判定ならその子の評価は高く、逆であれば低評価というイメージですね。

これが絶対の正解というわけではないと思います。

海外においても、ラボラトリーベースドエデュケーションが基本になっている国とそうでない国があります。
日本独自のスタイルというよりは、他の国の事例も参考にしながら今の形ができていったといえるでしょう。
なので、例えば、他の国から来た学生は、大学教育に対して持っているイメージが、日本の学生とは違うように感じます。

正しい答え=優秀と考える国もあれば、議論をしてみんなで生み出した答えを成果としてまとめようという国もあり、それぞれで評価基準も変わってきます。

資格を取ることを最終目標にしている学部学科であれば、もちろんそれが価値基準になりますよね。
その大学や進路によってパターンは千差万別です。

川野 :今のお話を聞いていて、少しソフトウェアにも共通する部分があるなと感じました。

postalkって、本当にシンプルなカードと機能だけで構成されているので、いわゆるフレームワークもテンプレート機能もないんです。

枠や指標がある方が使いやすいのはわかるんですが、自由度が高い方が使う人のアイデア次第で可能性が広がるからその点は譲りたくないなと思っていて。

木村:大学にしろソフトウェアにしろ、どちらの形も間違いではないのだと思いますよ。

自由度が高いpostalkだからこそ、研修や授業でこういう風に使おうという考えに至ったわけです。

ちなみに、教育者がいい加減で学生に関心を持っていない方が、学生が自主的に考えて動くから育つというパラドックスがあるんですよ。
本当の教育者は意外と教育をしていないという(笑)。
最低限の型があれば、あとは自由というスタイルはとても良いと思います。

川野 :今日は教育の現場におけるpostalk活用のお話をありがとうございました!

これからの開発の糧になりそうな良い刺激をいただきました。

今後もpostalkと教育の親和性について、ご助言をいただけるとうれしいです。

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